ドメーヌ セリーヌDomaine Serene
ドメーヌ セリーヌの早わかりポイント
- オレゴンワインの名を“世界のプレミアムワイン”に引き上げた
- 2004年ブラインドテイスティングでロマネ・コンティに勝利したことで一躍有名に
- 赤・白ともにワインスペクテイター誌年間トップ100のトップ3にランクイン
- 業界での影響力を称えられOregon Wine Press Persons of the Year2020を受賞
ロマネ・コンティにも勝利したオレゴン有数のプレミアムワイナリー
ドメーヌ・セリーヌはオレゴン州の銘醸地ダンディ・ヒルズに1989年に設立された、オレゴンでも指折りのワイナリー。
自社畑で丁寧に育てたブドウを使った素晴らしいピノノワールとシャルドネを造っています。
ドメーヌ・セリーヌを手掛けたのは、当時製薬会社を経営していたグレース&ケン・エヴェンスタッド夫妻。
夫妻は、オレゴンワインの知名度がまだ高くなかった時代に可能性を信じ、『オレゴンで世界に通用するピノノワールを造る』という、壮大な夢を持ってワイナリーをスタートさせました。
2004年には、有名な高級ブルゴーニュワイン“DRC”(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)とのブラインドテイスティングに勝利したことでドメーヌ・セリーヌが話題に。その後も、世界中のワイン雑誌や 評論家などから高い評価を獲得しています。
また、ドメーヌ・セリーヌのこれまでの活躍は、自身の評価のみならず、オレゴン・ワイン全体の評価を高め、世界的な知名度向上に貢献してきました。
大変残念なことに、夫のケン・エヴェンスタッドは2020年に逝去。同年、これまでオレゴンワイン業界に大きく貢献してきたエヴェンスタッド夫妻はオレゴン・ワイン・プレスから“OWP(Oregon Wine Press) 2020 Persons of the Year”を授与されています。
ドメーヌ・セリーヌの歴史
ワイン愛好家がワイン造りを決意した理由
ミネソタ州で製薬会社アップシャー・スミス(現・沢井製薬傘下)を経営していたケン・エヴェンスタッド。ケンと、妻・グレースは共に、大のワイン愛好家でした。
エヴェンスタッド夫妻は、1970年代から80年代には1,000本にも及ぶワインを収集。フランスワイン、特にブルゴーニュのピノノワールとシャルドネに夢中だったと言います。
趣味としてワインを楽しむ中で、夫妻は『何故、アメリカでピノノワールを造らないのか』と、常々疑問に思っていました。当時は、まだアメリカ産ピノノワールは広く普及していなかったのです。
そんな中、夫妻にオレゴンでのワイン造りを決意させた出来事が。
1989年11月、テキサス州の友人を訪ねた際に飲んだオレゴン州のピノノワール。その果実の質の高さに心底驚いたのです。
会社経営や子育てで忙しいながらも、いつかは自分たちのワインを造りたいと夢見ていた夫妻。テキサスからの帰りの飛行機の中で今がその時なのだと気づきました。『オレゴンの地で、世界に通用するワインを自分たちの手で造るのだ』と。
見切り発車で始めたワイン造り
夫妻は、わずか1ヶ月後にはオレゴンへ飛び、ダンディー・ヒルズの地に17ヘクタールの土地を購入。
このとき、辺りは霧がかかって視界が悪かったため購入予定の土地をしっかり確認できなかったそう。それでも夫妻が購入を決めたのは、“土壌サンプルがピノノワールに適していた”という理由、ただそれだけでした。
ちなみに後日、霧の無い日に改めて見たこの土地は、切り株や丸太、岩が残る、ひどく荒れた土地だったとか。土地を整備してブドウが植えられる状態になるには1993年頃までかかったそうです。
まだ、自社畑を持たなかったドメーヌ・セリーヌでは、最初の数年間のワインは、オレゴンの評判の良い畑(カナリー・ヒル、カーター、フリーダム・ヒル、グアダルーペなど)のブドウを購入して造られました。
ワイナリー設立から数年間は、当時パンサー・クリーク・ワイナリーでワインメーカーをしていたケン・ライトが醸造を担当。
エヴェンスタッド夫妻はワイン造りについて初心者だったため、とにかく現場に出てあらゆることを行ったといいます。収穫に参加し、ブドウ一つ一つを丁寧に選果。瓶詰めやラベル貼りなども全て手作業でした。
エヴェンスタッド夫妻の品質に対するこだわりは、すぐに実を結びました。
ドメーヌ・セリーヌのファーストヴィンテージである1990年のリザーブが、ワイン評論家のロバート・パーカー・ジュニアから90点を獲得したのです。
“地域のオレゴンワイン”を全米人気ワインに
しかし、ドメーヌ・セリーヌには、まだ販路の問題が残っていました。
夫妻は当時、オレゴンのワインメーカーたちから『オレゴン州外ではオレゴン・ピノノワールの需要は無い。ワインはオレゴン州内で販売したほうが良い』とアドバイスされていたのです。
けれどもエヴェンスタッド夫妻には、長年多くの素晴らしいワインを体験してきた“ワイン愛好家”として『ドメーヌ・セリーヌのピノノワールは全米市場でも十分に通用する』という自信がありました。
夫妻は、他のワインメーカーたちの助言に従うことなく、ドメーヌ・セリーヌは、州外での販売に乗り出しました。
結果的に、ドメーヌ・セリーヌの初ヴィンテージの販売は大成功。ニューヨーク、ボストン、ワシントン DC, シカゴ、ミネアポリス。驚くことに95%を州外で販売することができたのです。
一方で、オレゴン州内でほとんど流通することが無かったドメーヌ・セリーヌは、オレゴンでの知名度がゼロにも関わらず、全米で人気のワイナリーになりました。
また、ドメーヌ・セリーヌが全米でのオレゴンワインの流通を確立させたことに、他のワイナリーも追随。オレゴンワインはアメリカ中で親しまれるワインとなっていったのです。
ロマネ・コンティとの対決を経て高級ワインの地位に
ドメーヌ・セリーヌは、オレゴンの高級ワイン市場確立にも一役買っています。
もちろん、他のワインよりも高い価格設定にする以上、品質には徹底的にこだわりました。結果、シカゴのチャーリー・トロッターズやニューヨークのダニエルなどの有名なレストランにオンリスト。
2004年には、世界一高価で品質が高いと言われるのドメーヌ・ドゥ・ラ・ロマネ・コンティと真っ向から対決するという大胆な行動をとり、これが大きな反響を呼びました
アメリカ22州のトップソムリエやレストラン経営者を含む37名が参加したブラインドテイスティングにおいて、1998年・1999年・2000年の3つのヴィンテージ全てで1位・2位を独占したのです。
このようなオレゴンワイン業界への多大なる貢献や、ワイン教育への支援が評価されたエヴェンスタッド夫妻は“2018年ワイン・スペクテーター功労賞”、“オレゴン・ワイン・プレス・パーソン・オブ・ザ・イヤー 2020”を受賞しています。
命名に秘められた大切な人々
ドメーヌ・セリーヌには、エヴェンスタッド夫妻の子どもたちが由来となった名前があります。
それぞれ、最初に開拓したブドウ畑には息子の“マーク・ブラッドフォード”の名を、そしてワイナリーの名前には娘“セリーヌ”の名を冠しているのです。
この“セリーヌ”の名前には、もう一人ゆかりのある人物がいるのはご存知でしょうか。
話はケンとグレースが出会う前、1966年まで遡ります。
その頃、ケンはミネソタ大学で薬学を学ぶ学生で、グレースは看護学生でした。大学のフォーマルパーティに参加する予定だったケン。しかし直前になって一緒に行く相手にキャンセルされてしまい困っていました。
そのとき、グレースにケンと一緒に行くように頼み込んだ人物がいました。いわば、二人のキューピッドとでも言うべき人物。それはグレースのルームメイト“セリーヌ”でした。
偶然知り合うことになった二人でしたが、パーティのダンスが終わる頃には恋に落ち、7ヶ月も経たないうちに、結婚生活を始めることに。
そして生まれた娘に、二人を引き合わせてくれた友人と同じ“セリーヌ”と名付けたのです。この友人が別の友だちを紹介していたら…もしくは友人の名前が別の名前だったらドメーヌ・セリーヌのワイナリーはまた別の形になっていたかもしれません。
惜しみない慈善活動への取り組み
エヴェンスタッド夫妻は、ドメーヌ・セリーヌでのワイン造りだけでなくチャリティ活動や地元でのワイン教育活動に関しても惜しみない力を注いでいます。過去20年間で、地元や全米の慈善団体に2,000万ドル以上もの寄付を行ってきました。
恵まれない子供たちを支援する支援する慈善団体NCEFが開催しているネイプルズ・ウィンター・ワイン・フェスティバルを始めとした、全国の著名なワイン・オークションを支援。
また、オレゴン州マクミンヴィルに本拠地を置くリンフィールド大学にワイン教育プログラムのための多額の寄付も行っています。これは、オレゴンのワイン業界発展を願ってのものです。
ドメーヌ・セリーヌに対する世界的評価
ドメーヌ・セリーヌのワインは、世界的に高い評価を受けています。
2006年には、全米のソムリエを対象とした人気ランキング“RESTAURANT POLL RANKING”で、エヴェンスタット・リザーブ・ピノ・ノワールがオレゴンワインの1位に選出。
ワインスペクテイター誌年間トップ100では、ピノノワールとシャルドネの両方がトップ3にランクインしました。
2020年には、イギリスのデキャンター誌“ワールド ワイン アワード2020”において、この年最高のワイン50本だけに与えられる最高の栄誉『ベスト・イン・ショー』を含む、合計 23個のメダルを獲得。世界で最も受賞したワイナリーとなりました。
また、ワイナリーや手掛けるワインに留まらず、エヴェンスタッド夫妻のワイン業界への貢献に対しても多方面から称賛されています。
主な受賞歴
- “2003エステート・ワイナリー・オブ・ザ・イヤー”ワイン&スピリッツ誌
- “2014年世界の偉大なワイナリー50選”ワイン評論家ジェームズ・サックリング
- 2013年ワインスペクテイターTOP100 第3位 / エヴェンスタッド リザーヴ ピノノワール2010
- 2016年ワインスペクテイターTOP100 第2位 / エヴェンスタッド リザーヴ シャルドネ2014
- “2018年ワイン・スペクテイター功労賞”ワインスペクテイター誌
- “2020 Oregon Wine Press Persons of the Year” オレゴン・ワイン・プレス
ワイン造りへの5つのこだわり
ブドウ畑へのこだわり
ドメーヌ・セリーヌの高品質なワイン造りは、ブドウ畑から始まります。
6つある自社畑は、すべてサステイナブル認証。標高や土壌、日照量が異なる個性豊かな自社畑では、灌漑を行わないドライファーミングを実施しています。
それぞれの自社畑では、細分化された区画ごとに、ブドウ樹のクローンと台木の組み合わせを選定するこだわりも。
収穫を行うのは、フレッシュな果実が収穫できる早朝。果実が潰れることのないよう細心の注意を払って手摘みで収穫します。もちろん、それぞれのブドウの個性を活かすため、収穫は各区画ごとに行われます。
ワイン醸造でのこだわり
ドメーヌ・セリーヌの5階建てのワイナリーは、グラヴィティフロー・システムを採用した設計。これは、ワイン醸造の各工程への移動に重力を利用するもの。ワインに負荷をかけることなく移動させることで、繊細な個性を損なわない工夫です。
ブドウを収穫すると、選果台の上で葉や未熟な果実などの不要物を取り除きます。これは、設立当初から行っている工程で、当時は他のワイナリーはほとんど実施していませんでした。
醸造工程では、区画別に収穫したブドウの個性を失わないために、混ぜること無く別々に発酵させます。この工程は毎年最大250にも及びます。
ワイン樽へのこだわり
ドメーヌ・セリーヌでは、15の異なるフランスの樽職人が手掛ける70種類もの樽を使い分けています。
ほとんどのヴィンテージで1,000個を超えるワイン樽は、ブドウの産地や収穫日、樽の年数、サイズ、森林の種類、焦がし具合などをデータベースで個別に管理。長年の経験から、特定の樽やオークの種類を特定の畑の区画と組み合わせることで、ワインを最高の状態にしています。
ブレンド技術へのこだわり
ドメーヌ・セリーヌのワイン造りの哲学の中心にあるのは、世界クラスの原酒をブレンドする巧妙な手法です。
樽熟成の段階からロットごとのテイスティングを繰り返し、複数のトライアル ブレンドが作られます。ブレンド工程には1年以上かかることも。
この妥協を許さない姿勢が、調和の取れたエレガントでシルキーな理想のワインを造り出すのです。
ワインの熟成へのこだわり
ワインは瓶詰め後、エヴェンスタッド夫妻やワインメーカーが納得するまでリリースされず、最低1~2年間完璧な環境の中で瓶内熟成されます。
このようにドメーヌ・セリーヌのワインは、時間と手間をかけてワインの品質管理をしているため、リリース直後からも楽しむができますが、セラーで適切に管理すると、ピノノワールは20年以上、シャルドネは10年以上の追加熟成も期待できます。