キスラーKistler
キスラーの早わかりポイント
- 世界のワインラヴァー垂涎!カリフォルニア・シャルドネの代名詞
- 畑の個性を引き出すためあえて人の手は加えない
- 醸造方法は全ワインほぼ同じ。異なるのはブドウが育つ畑だけ
- ピノノワールはロマネコンティ由来と言われる2種のクローン
- 創設者スティーヴ・キスラーはカリフォルニア・シャルドネのレジェンド
- ロバート・パーカーが“ブルゴーニュのグラン・クリュ”にも劣らないと絶賛
カリフォルニアにおけるブルゴーニュスタイルの先駆者
世界のワインラヴァーが「カリフォルニア・シャルドネの代名詞」と称えるのが、キスラー・ヴィンヤーズ。カリフォルニア・シャルドネのスタンダードを確立した、カリフォルニアにおけるブルゴーニュスタイルのパイオニア的存在です。
1978年、スティーヴ・キスラーとマーク・ビクスラーの二人によってソノマで創設されたこのワイナリーは、「カリフォルニアの土地の魅力を存分に引き出したワインを造る」という理念のもとスタートしました。
スティーヴはリッジ・ヴィンヤーズで2年間アシスタントを務めたのち、キスラーでワインメーカー兼ブドウ畑の管理を担当。一方のマークは、フレズノ州立大学で7年間化学を教えながらフェッツァー・ヴィンヤーズで経験を積み、ビジネスマネージャー兼販売担当として経営面を支えました。
その名声はワインファンのみならず、著名な評論家からも絶大な信頼を得ています。
ロバート・パーカーJr.は、自身の発行する『ワイン・アドヴォケイト』誌でこう評しました。
“もしキスラー・ワイナリーを魔法のようにブルゴーニュの
コート・ドールの中心に移すことができたなら、その名声は、
ブルゴーニュのグラン・クリュを生み出すいかなる生産者にも劣らぬほど、
たちまち輝かしいものとなるだろう”
さらにワイン・スペクテイター誌2022年7月号では、スティーヴ・キスラーが“カリフォルニア・シャルドネのレジェンド7人”の一人として表紙を飾り、その功績が改めて称えられました。
従来、凝縮感あふれるパワフルなスタイルで知られてきたキスラーですが、近年はよりテロワールを映し出す方向へと進化。
収穫時期を早め、酸を大切にしたブドウ本来の味わいにフォーカスすることで、洗練されたミネラル感と酸味を基盤に、抜群のバランスとフィネスを備えたエレガントな味わいを実現しています。
2008年には、銘醸畑デュレル・ヴィンヤードやカルトワイン「ギャリー・ファレル」のオーナー、ビル・プライスが共同オーナーに就任。
一方、創業者スティーヴ・キスラー氏は2017年に独立し、新たなプロジェクト「オクシデンタル(Occidental)」で、ピノノワールを中心に理想のテロワール表現を追求しています。
現在、20年以上にわたりともに歩んできた愛弟子、ジェイソン・ケスナーが社長兼ワインメーカーに就任。2020年には、ワイン・スペクテイター年間TOP100 WINESで第6位に輝きました。
キスラーのブドウは、平均樹齢が30年以上。ワインメーカーのジェイソン・ケスナー曰く「今まで以上に良質なワインが生まれる黄金期」
彼もまた、“キスラースタイル”を受け継ぎ、そのフィネスとエレガンスを次世代へと繋げています。
すべてはぶどう畑から
「畑こそがワインを決定づける」
この揺るぎない信念のもと、キスラーはソノマを中心とする5つのアペラシオンにまたがる、17の畑からピノノワールとシャルドネを生み出しています。
キスラーでは、それぞれの畑の魅力を明快にするため、どのキュヴェも醸造方法はほとんど変えていません。すべてノン・フィルター、ノン・コラージュ(無濾過・無清澄)で瓶詰めされ、違いを生み出すのは、ただひとつ“ブドウが育つ畑の個性だけ”です。
契約農家との深いパートナーシップ
キスラーは、すべての畑を自社所有しているわけではありません。しかし、単にブドウを買い取るだけの関係ではなく、30年以上にわたって築かれた栽培農家との信頼関係のもと、理想の畑づくりを共に行っています。
契約畑では、最適な土壌の選定から植樹、栽培管理に至るまで、キスラーが深く関わりながら、自社畑と同様の基準でブドウを育てています。
この「共に育てる」姿勢こそ、キスラーが特別である理由のひとつです。
単一畑(シングル・ヴィンヤード)への情熱
キスラーでは、単一畑シリーズをリリースするまでに、そのブドウ畑に植樹してから約8~17年という長い年月をかけます。単一畑としてリリースするに値するほど、畑の個性が十分に表現されるまで時間を惜しまず待つ―それがキスラーのポリシーです。
それまでは、複数の畑のブドウをブレンドしたマルチ・ヴィンヤード・キュヴェとしてリリースし、ワイナリーのスタイルをより明快に感じられ、若いうちからでも、キスラーの真髄を体験できる1本に仕上げています。
代表的な単一畑(シングル・ヴィンヤード)
- Dutton
ロシアン・リヴァーとソノマ・コーストの交差する中心部。砂質ゴールド・リッジ土壌に植えられた果樹園跡地で、繊細な果実味と伸びやかな酸が調和する。
- Vine Hill
グラトンという小さな町のすぐ北に位置するワイナリーを囲む畑。砂質ゴールド・リッジ土壌。果実と石の香りが重なり、緊張感のあるミネラル感が魅力のシャルドネ。
- Trenton Roadhouse
細粒の砂質ゴールド・リッジ土壌。ミネラルが際立ち、青みを帯びた果実味に複雑な土壌由来のニュアンスが重なる。
- Laguna Ridge
砂岩と堆積層の畑。同一区画からシャルドネとピノを造る特別な区画。
・Chardonnay: ヘーゼルナッツや蜜蝋の香り、豊かな余韻。
・Pinot Noir: 赤系果実とミネラルが調和した、凝縮感ある味わい。 - Silver Belt
2006年より、この区画からキュヴェ・ナタリー・ピノノワールが作られています。酸化鉄を含む砂利質土壌。野生ベリーや花の香り、シルキーな質感が特徴の、エレガントなピノノワール。
- McCrea
ソノマ山脈の東斜面。火山岩と石灰岩が混ざる希少な土壌で、繊細な花のアロマとチョークのようなミネラル感を持つエレガントなシャルドネを生み出す。
- Kistler
マヤカマス山脈西端、標高約550mの小さな盆地に広がる最初の自社畑。樹齢40年を超えるブドウが深い赤色の火山灰土壌で育ち、骨格と豊かな層を備えた力強い味わい。
- Kistler Vineyard Cuvee Cathleen
キスラー・ヴィンヤードの特定区画のみから造られる特別キュヴェ。砕けた頁岩を含む赤い火山岩土壌が特徴で、複雑かつ完成度の高いシャルドネを生む。
- Hyde
カーネロスの中心。海洋性ローム土壌で、緑の石や果樹園の果皮、砕いた牡蠣殻を思わせるミネラル香が特徴。自然な酸が生むクラシックなシャルドネ。
- Hudson
ナパ南西部カーネロス。火山性と海洋性堆積土が混ざる稀有な地層「ブロックE」で栽培。蜜蝋や黄色い果実、ヨウ素のようなミネラル感を併せ持つ奥行きある味わい。
- Durell
ソノマ・ヴァレー南端。区画を横切る石の多い地層の影響を強く受けた海洋性ローム土壌。太陽を浴びた果樹園の香りが印象的な重厚で気品あるスタイル。
- Stone Flat
デュレル・ブロックの向かいに位置。礫混じりの海洋性ローム土壌ながら異なる台木を採用し、引き締まった果実味と長い余韻を持つ。
- Stock Ranch
ソノマ郡西部。太平洋からの風と霧に包まれる中間地帯。塩気を帯びたミネラルと緻密な果実味が融合し、強い酸がワイン全体を支える。
ブドウ品種とクローン選定
キスラーのワイン造りにおいて欠かせないのが、「クローン選定」へのこだわりです。
※クローンとは、特定のブドウの樹から挿し樹(または接ぎ木)によって増やされた株で、元の樹と遺伝的にほぼ同じ性質を持つブドウ樹のこと。
シャルドネ ― カリフォルニア・シャルドネの原点、ウェンテ・クローン
1980年代半ば以降、キスラーではブルゴーニュから20世紀初頭に導入されたウェンテ・クローンを使用しています。このクローンは、ラリー・ハイドの畑から調達されたもの。
収量が少なく粒が小さいですが、果実の凝縮感が高く、自然な酸をしっかりと保持できるのが特徴です。
その卓越したバランスの良さから、現在では12の単一畑シャルドネすべてにこのウェンテ・クローンが植えられています。
ピノノワール ― ロマネ・コンティの血を引く、二つのクローン
ピノノワールについても、最良のクローンを追求していった結果、現在は、カレラ・クローンとスワン・クローンという、2種類のクローンを使用しています。
25年にわたり両クローンの個性を見極めてきた末、“片方を優先することではなく、両方を混植して使うこと”が最善だという結論に至ったのです。
現在、ラグーナ・リッジとシルバー・ベルトでは主にカレラ・クローンが植えられていますが、新しい樹にはスワン・クローンも導入されています。
●カレラ・クローン:やや濃い色調で、紫がかった果実と深みのある風味が特徴。
●スワン・クローン:より明るく、赤系果実の風味。
この二つのクローンはともに、かつてフランスから持ち帰ったロマネ・コンティの苗木であると伝えられており、まさに伝説の血統を宿す存在です。
畑の個性を映し出すための収穫と醸造
シャルドネやピノノワールは、人の手が加わった部分が最も味わいに現れる繊細な品種です。そのためキスラーでは、「いかに人の手を加えないか」ということを何よりも大切にしています。
収穫へのこだわり
畑の選定の次に重要なのが、いつ収穫するかという判断です。キスラーではブリックス(糖度)とpHを慎重に見極め、すべての収穫を夜明け前の涼しい時間帯に行います。
午前3時、まだ暗闇の中で摘まれるブドウは、日中とはまったく異なる生理状態にあり、果実の鮮度や酸、香りが驚くほど純粋なまま保たれています。
キスラ―には約50人の専任スタッフが在籍しており、80%が畑とセラーの両方に関わっています。畑から醸造までを一体で管理する体制が、キスラーのワインを支えているのです。
醸造へのこだわり
キスラー設立当時、カリフォルニアではステンレスタンクによる近代的な醸造が主流でした。しかしスティーヴ・キスラーは、あえてフレンチオーク樽でアルコール発酵とマロラクティック発酵を実施。野生酵母を用い、清澄や濾過を行わず、樽内で熟成させるブルゴーニュに倣ったこの伝統的なワイン造りをいち早くカリフォルニアで確立しました。
この手法は創設当時から受け継がれる伝統であり、ジェイソン・ケスナーがワインメーカーに就任した現在にも引き継がれています。
ピノノワールの醸造においても、ブドウは自然発酵させ、パンチダウン(強い撹拌)は行いません。そのかわり、2人のチームが24時間体制で温度を管理を行います。さらに、すべてのピノノワールはフリーランジュースのみを使用し、圧搾された果汁は使いません。これは、各ヴィンテージの約15%のワインが生産されないことを意味しています。
こうして生まれるキスラーのワインは、人為的な介入を最小限に抑えることで、畑とブドウ本来の個性をそのまま映し出しています。

