フラワーズFlowers
フラワーズの早わかりポイント
- 唯一無二な厳しい環境で極上のシャルドネとピノ・ノワールを造る孤高の生産者
- カリフォルニア・シャルドネの王『キスラー』に見出され、瞬く間に世界的ワイナリーに。
- 有機栽培、ビオディナミを実践し、野生酵母100%の発酵。畑の特徴をストレートに表現したワイン造り。
ソノマコーストを切り開いた孤高の生産者
フラワーズは、ソノマ・コーストの険しい海岸沿いの尾根で、ピノ・ノワールとシャルドネに特化したワイン造りを行う生産者です。海からの冷涼な風と、高い標高の影響を受けた、非常に複雑でエレガントなワインを生み出します。
当時「寒すぎる」ことで長らくブドウ栽培には適さないとされてきたソノマコーストを切り開いた数少ない生産者のひとつです。
実は、フラワーズの名を初めて有名にしたのは、彼ら自身のワインではありません。
フラワーズの自社畑『キャンプミーティング・リッジ』の名を冠したワインを最初にリリースし、世界にフラワーズのクオリティを知らしめたのは、カリフォルニア・シャルドネの王として有名なあの『キスラー』でした。
現在、ご高齢のため惜しまれつつ引退したフラワーズ夫妻に変わってワイナリーを引き継いでいるのは、チリ最大のワイナリー『コンチャイトロ』隆盛の立役者アグスティン・フネアスとその家族。
ワイナリーは創業者フラワーズ夫妻の手を離れましたが、初めて夫妻がこの地に足を踏み入れた30年前から現在に至るまで、“土地本来の良さを生かしたピノノワールとシャルドネを造る”というこだわりは変わっていません。
フラワーズの歴史
フラワーズの創業者は、ペンシルバニア州で苗木屋を営んできた“フラワーズ家”のウォルト&ジョアン・フラワーズ夫妻。そう、“フラワーズ”という素敵なワイナリー名は創業者の名字に由来します。
1980年代、フラワーズ夫妻は当時営んでいた苗木業で種子の買付けや視察を行うため、年に2回カリフォルニアを訪れていました。一方で、夫妻はカリフォルニアに訪れる度に、ここで造られるワインへの興味を募らせていきました。やがて夫妻のワインへの情熱は、自分たちのブドウ畑を所有し、“苗木業で培った豊富な農業知識を活かした優れたワイン造りたい”という夢へと変わっていきました。
1989年、フラワーズ夫妻は夢を実現させるための土地を、ワイン・スペクテイター誌の巻末に掲載されたたった3行の小さな広告から見つけました。
そこは、当時ワイン造りでは無名のソノマ・コースト。しかも夫妻の見つけた土地は、僻地と言っても過言ではない、ソノマ・コーストの曲がりくねった山道の先にある尾根に位置していました。周囲からは、ブドウ栽培にとって未開の地である、この場所でのワイン造りに嘲笑の声も上がったといいます。
しかし、職業柄ブドウという植物の特性をよく知っていたフラワーズ夫妻は、この土地で農業ができることを確信していました。1991年、夫妻はこの土地の土壌、歴史、気候などを綿密に調査し、当時ワイン産地としてはほとんど見向きもされなかった海に非常に近く標高の高い山奥に、自らの畑『キャンプミーティング・リッジ』を拓き初めてシャルドネとピノノワールを植えました。
そんなフラワーズ夫妻の行動に、最初に目をつけたのがスティーヴ・キスラー。彼は、カリフォルニア・シャルドネの王として有名な『キスラー』を手掛け、シャルドネだけでなくピノノワールにも精通したカリスマです。
スティーヴ・キスラーは高品質で強い個性を持つフラワーズのブドウをとても気に入り、フラワーズからブドウを購入。まだ自身のワイン造りには手を出していなかったフラワーズに先駆けて、キスラーから『キャンプミーティング・リッジ』名でワインをリリースしました。このワインが評判を呼び、瞬く間にフラワーズの畑の名はアメリカのみならず世界に広まることになります。
その後、フラワーズ自身もワインを手掛けるようになり、1998年にはワインスペクテイター誌の“カリフォルニアのシャルドネ生産者に関するレポート”で、シャルドネの際立った出来が評価され「注目すべきワイナリー」のひとつに選ばれました。
素晴らしいワインを世に送り出し、多くのワインファンを魅了してきたフラワーズ夫妻ですが、2008年にご高齢のため引退。
現在は、フラワーズのワイン哲学を引き継ぎ、醸造家アグスティン・フネアスとそのファミリーがワイナリーを運営しています。
アグスティンは、チリ最大のワイナリー『コンチャイトロ』隆盛の立役者であり、現在はナパのトップワイナリーの一つクィンテッサも手掛けるなど、しっかりとした実力を備えています。この山奥の畑の素晴らしい可能性に気付いていた彼らは、オーガニック農法やバイオダイナミクス農法を徹底して取り入れ、今まで以上にフラワーズの可能性を追求しています。
2012年からは、女性醸造家シャンタル・フォーサンが着任。バイオ・ダイナミクスを追求するボニー・ドゥーンのランドール・グラハム氏の元でバイオダイナミック農法と自然なワイン作りを学び、ニュージーランドのクォーツ・リーフでピノノワールとシャルドネへの情熱に火をつけた彼女のもと、フラワーズはかつてないクオリティを体現しています。醸造責任者として就任した現在は、より畑の特徴を反映しテロワールを表現したワイン造りを行なっています。
フラワーズが所有する2つの自社畑
フラワーズの2つの自社畑は、ナビゲーションシステムが無かった時代はワイナリーにたどり着けない人が続出した、辺鄙な場所にあります。ここは、冷たい寒流が流れる太平洋に近いソノマ・コーストの山中に位置し、山岳地で標高も緯度も高く『本当にこんな場所でブドウは育つのか』と疑問に思われるほどに気温が低いことが特徴。
通常このエリアでは、カリフォルニア名物の「霧」の影響を強く受け、ブドウの成熟が足りません。そのためフラワーズの自社畑は共に霧の及ばない約400メートルの高地にあります。
厚い雲と太平洋からの霧に覆われブドウ畑は冷やされ、霧の晴れた朝から昼にかけ豊かな日光を浴びる独特な気候条件。
海風によってブドウに豊かな酸味が保たれ、長い日照時間によりブドウの果皮は厚くなりタンニンなどフェノール分の豊かな骨格のあるワインとなります。カリフォルニアの強い日差しと低い気温、この相反する要素が他のどこにもない独特な風味を与えるようになります。
キャンプ・ミーティング・リッジ
フラワーズ夫妻が1991年に拓いたキャンプ・ミーティング・リッジは、かつてポモ・インディアンの避暑地として、またロシア人毛皮商人との交易の場として利用されていた場所で、農業としては全くの手付かずの土地でした。
太平洋からは約3.5km距離にあり、標高が約350~440mと霧より上に位置するため、ブドウの生育期には十分な日光を浴びることができる場所。130haから成るこの場所には、シャルドネが約7ha、ピノ・ノワールが約4haしか植えられていません。ピノノワールは魅惑的なスパイス、しっかりとした果実味、引き締まったタンニンが特徴。シャルドネは、豊かなレモンカードのフレーバーと繊細なミネラルが特徴。
シー・ヴュー・リッジ
1998年に土地を購入し植樹したシー・ヴュー・リッジは、太平洋からは約2.9kmの距離、標高が約430~570mに位置しています。これは、キャンプ・ミーティング・リッジより高く、海から近い場所です。若い火山性の土壌が多く含まれているため、口当たりが良く、丸みを帯びています。
シー・ヴュー・リッジも133haという広大な土地を有していますが、ブドウが植えられているのは、たった17haだけ。シャルドネ0.8haとピノ・ムニエ0.7haを除き、ほとんどピノノワールが植えられています。ピノノワールは、鮮やかな果実味、柔らかいタンニン、香り高いアロマが特徴。シャルドネは、はっきりしたアロマ、爽やかな果実味、エレガントなボディが特徴。
ソノマ・コーストAVAについて
この20年で最高品質のシャルドネやピノ・ノワールの産地として不動の地位を勝ち得てきたソノマ・コースト。
現在もカリフォルニアを代表する素晴らしいワインが次々と生み出されていますが、かつては多くの醸造家達から「あんなところ寒すぎてせいぜいスパークリングワインの材料ブドウぐらいしかできないだろう」と思われていました。
しかしフラワーズを始めとする志の高い造り手達の長年の努力で、高品質かつ個性を持つワインがソノマ・コーストで造られることが判ってくると、シャルドネとピノノワールの生産者達から熱い視線を集めることとなっていきました。
しかしそれによって弊害も起きます。Sonoma Coastと記されたワインがワイン愛好家の間で大流行すると、様々な利害の関係から認定エリアが広く設定されてしまうという問題が起き、消費者の間で混乱が生じるようになっていきました。
この結果、人々は混乱を避けるために、フラワーズが位置する独特の風土を持つエリアをいつしか“True Sonoma Coast”という非公式な名称で呼ぶようになりました。その後“Fort Ross-Seaview”という正式なサブAVA(小区画)が認定され、現在は海側の個性的な風土を持つエリアを限定するためにWest Sonoma Coast AVA策定の動きが進んでいます。