ハーシュ ヴィンヤーズHirsch Vineyards
ハーシュ・ヴィンヤーズの早わかりポイント
- リトライ、ウィリアムズ セリエム、キスラー!名立たる醸造家を虜にした果実
- エレガント系カリフォルニアワインのブームを牽引したIPOB創設メンバー
- ワイン&スピリッツ誌“2021世界TOP100ワイナリー”選出
トゥルー・ソノマコースト屈指の栽培家が、満を持して造り始めたワイン
ハーシュ ヴィンヤーズは、1980年にソノマコーストの西側、現在のフォート ロス シーヴューAVAに初めてピノノワールを植えたパイオニアです。創設から長らく、ブドウの栽培を専門としていました。
やがて、カリフォルニアの各トップ生産者にブドウを供給するようになると、他に類を見ないテロワールから生まれる「透明感・複雑さ・凝縮感」を兼ね備えた果実は、大きな反響を呼ぶことに!
評判を受けたハーシュは満を持して自社ワイナリーの設立に乗り出し、2002年にピノノワールを初リリースしています。その後ハーシュは、栽培家としてのみならずワイナリーという視点からも一目置かれる存在となっていきました。
現在ハーシュでは9種類のピノノワールとシャルドネを手掛けており、全てのワインは自社畑のブドウを100%使用して造られています。
ハーシュが所有する約30haの畑は日照量・地形・土壌などを考慮した上で、60以上ものブロックに細分化されており、個々に栽培から収穫・醸造まで行われます。この管理区分の細やかさは、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイをも上回るのだそうです。
ブロックごとのケアには、当然コストも手間もかかります。しかし、それぞれに適した台木やクローン・灌漑などを選択することこそが、ワインの高い品質を維持する秘訣なのです。
近年では、ワインスペクテーター誌が2021年に企画した「フォート ロス シーヴューAVA特集」において、ハーシュのワインが『フラワーズ』などと並んで表紙を飾りました。
またハーシュはワイン&スピリッツ誌“世界TOP100ワイナリー”へ度々選出されており、2021年にもランクインを果たしています。
ハーシュとワッシーズの繋がり
実はわたしたち、ハーシュヴィンヤーズとはワッシーズ10周年を記念してコラボワインを造ってもらったほどとっても仲良し!!
ラベルにデザインされたのはワッシーズの名前にちなんだ「鷲」。創業者デイヴィッドの奥様で、ハーシュの全てのラベルデザインを手掛けるマリーさんに特別に作っていただきました。
腕利き醸造家3名を虜にしたハーシュの果実
デイヴィッド・ハーシュ氏は1978年に土地を購入した当初、シイタケなどの栽培を考えていたそうですが、友人の勧めで約0.4haのピノノワールと、約0.8haのリースリングを植えることに決めました。これがハーシュ ヴィンヤーズの始まりです。
畑は太平洋からわずか5kmしか離れていないうえ、丘陵地に位置するため標高は最高地点で約450mに及びます。そのため、ハーシュのブドウは寒冷な気候の影響を受けてゆっくりと育ち、低い果汁糖度で風味が引き出された、非常に個性的な仕上がりとなります。
しかし、栽培を始めた初期の販売先は大手ワイナリーであったため、他の土地のブドウとブレンドされ、類稀なるハーシュの個性は埋もれていました。
そんな中、唯一無二の輝きを放つ果実に目を付けたのが、『リトライ』のテッド・レモン氏、『ウィリアムズ セリエム』のバート・ウィリアムズ氏、『キスラー』のスティーヴ・キスラー氏という錚々たるメンバーでした。
1994年に3名の醸造家は会し、「この素晴らしいブドウを活かして、自分たちのワインを造らせてほしい!」と直々にデイヴィッド氏を説得したのです。
デイヴィッド氏はブドウの提供を承諾。畑の名をラベルに記したワインがそれぞれのワイナリーでボトリングされると、ハーシュは瞬く間に名声を得ることとなりました。
特に注目を集めたのは、デキャンタ誌が発表したリトライ ハーシュヴィンヤード1995年のレビューです。その中で「おそらくこれまで飲んだニューワールドのピノノワールで、最も素晴らしい!」という讃辞を送っています。
その後、ハーシュのブドウを購入したいと名乗り出る生産者は後を絶たず、一時は30を超えるワイナリーへ供給するほどの人気を博しました。
創業から約20年間栽培を専門としていたハーシュは、2002年ついに自社ワインをリリースすることとなります。
ワイン造りに挑戦した理由は「ブドウとワインをもっと深く理解し、よりよい農家になるため」でした。醸造まで手掛けることで、区画ごとの特徴をさらに細部まで捉え、栽培にフィードバックできると考えたのです。
現在はブドウの販売先を『リトライ』、『ウィリアムズ セリエム』、『フェイラ』などの数社に絞り、自社ワインで“真のソノマコースト”を表現することに重きを置いています。
父から娘へ受け継がれる“ハーシュの顔”
オーナー:デイヴィッド・ハーシュ
ハーシュ ヴィンヤーズの創業者であるデイヴィッド・ハーシュ氏は元々アパレル業で活躍していました。1987年からは、ブドウ栽培と醸造に専念しています。2014年に農園内のトラクター事故で大怪我を負ったこともあり、現在はワイン造りの統括を娘のジャスミンに託しています。
ハーシュの畑は、極めて複雑なテロワールを有しているうえ、霧の発生により病害が発生しやすいエリアです。その中でデイヴィッド氏はトライ&エラーを繰り返し、「この土地の気候・土壌・ブドウこそが、私たちにとって一番の師である」と気付きました。気難しくも気高い畑に対し、謙虚な姿勢をもって向き合うことの重要性を次の世代へと伝えています。
ゼネラルマネージャー/醸造責任者:ジャスミン・ハーシュ
ジャスミン・ハーシュ氏は、フィラデルフィアの学校を出て、ヨーロッパやニューヨークで6年間ビジネス経験を積んでいます。その後、このハーシュの土地のとてつもない魅力に取りつかれ、2008年に故郷へ戻ってきました。
家業に参画した当初から、畑ごとの特徴を活かしたワインを造りたいという熱意は人一倍!些細なことも見逃さないよう、畑から目と鼻の先に住むことを決めたそうです。
販売やマーケティングに従事した後、2015年ゼネラルマネージャーに就任。2019年に醸造責任者となり、ワイナリーを引き継ぎました。
彼女は、長年の友人であり著名ワインディレクターのラジャ・パー氏とともに、ワイン生産者団体「IPOB」を立ち上げたことでも有名です。
「IPOB」とは“In Pursuit of Balance”の略。カリフォルニア産のピノノワールとシャルドネにおける、優れたバランスの探求を目的として結成された団体です。加盟生産者が主体となり、2011年の設立から2016年までの5年間に国内外で試飲イベント等を開催しました。
人気ワインジャーナリストのジョン・ボネ氏が「IPOB」の活動に加わったタイミングでブームはさらに加速し、“新しいカリフォルニアワインの潮流” が市場に変化をもたらしました。
ジャスミン・ハーシュ氏は、昨今の“エレガント系カリフォルニアワイン”ブームの一端を担った女性と言えます。
個性輝くハーシュのブドウが育まれる気候や地形
ハーシュが土地を購入したのは、羊牧場となっていた西ソノマコーストの尾根でした。立ち入ることさえ困難な人里離れた海岸沿いの険しい山の中で、彼らは少しずつ畑を拓いていきました。
ハーシュの畑は天気の移り変わりが激しく、区画ごとの気温差も大きい場所。霧や湿度、風などが毎年流動的に変化していき予測不能です。またこの場所は、太平洋プレートと北アメリカプレートの境界をなす「サンアンドレアス断層」に隣接するため、土壌は驚異の多様性を有しています。
このような厳しい気候と多様な土壌が要因となり、ハーシュのワイン最大の魅力である“区画やヴィンテージによって異なるキャラクター”が生み出されます。
ブドウ農家ハーシュの並々ならぬこだわり
ハーシュの特徴をインポーターさんへ尋ねてみたところ、「ブドウが持つチカラを育むことへのこだわりが凄まじい!」という答えが返ってきました。
フィロキセラを利用した農業に取り組む区画
ハーシュの畑のうち、イーストリッジにある古いブドウ樹の約80%は、過去にフィロキセラの被害を受けています。フィロキセラとは、主にブドウの根に寄生する害虫のこと。樹液を吸われたブドウは次第に根の状態が悪くなるため、土壌から十分な栄養素や水分を吸い上げることができず、最終的には枯死してしまいます。
ハーシュにおいても、フィロキセラの被害にあった多くのブドウは台木への植え替えを余儀なくされました。しかし、他と比べてフィロキセラの進行が緩やかだったブロック4Bとブロック5においては異なる対応を取りました。あえて、植え替えを行わなかったのです。
ハーシュは、長い年月をかけてこの2つの区画で“フィロキセラを利用した農業”にチャレンジすることを選びました。
フィロキセラの被害を受けた樹は収量が減ってしまいますが、それを逆手に取り、収量が自然に抑えられることでもたらされる凝縮感を、区画の個性として活かしています。
長期的な視点で健康なブドウ畑を育む
ハーシュでは、安易に肥料を与えることなく必要な時に適切な栄養をブドウに届けるための土作りが大切であるという考えから、2011年に農法転換のプロセスを開始しました。
2014年に全ての畑をバイオダイナミック農法へ完全移行し、ブドウが持つ免疫力を高める栽培に取り組んでいます。
ハーシュの土地は、海霧からの湿度によって病害のリスクが大きい場所です。しかし、ブドウが本来持つチカラを伸ばすことによって被害を防ぐとともに、長期的な視点で健康な畑を育む明確なビジョンを描いています。その結果、年々収量は安定し果実の品質も向上し続けています。
常に流動的な環境に身を置くハーシュにとって、現状維持などあり得ません。数々の失敗から得た学びとたゆまぬ努力によって、ハーシュにしか造れない研ぎ澄まされたワインが生まれています。
ハーシュ ヴィンヤーズの主な畑
約30ha、60以上の区画に及ぶハーシュの自社畑は、大きく5つに分けて名付けられています。
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East Ridge
イーストリッジは、東の尾根に沿って北向きに拓かれた急傾斜の畑で、地形学的に極めて複雑な場所にあります。濃厚で豊かな果実味を持つピノノワールが造られます。
1990年に最初のブロックを植え付け/合計約7ha(16のブロックで構成)
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West Ridge
ウエストリッジは、特に標高の高い西側の尾根に沿って拓かれた畑です。透明感のある果実味と柔らかいタンニンが特徴的でロマンティックなピノノワールが生まれます。またシャルドネも栽培されています。
1992年に最初のブロックを植え付け/合計約11ha(27のブロックで構成)
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Raschen Ridge
ラッシェンリッジは、最も標高の高い位置にあり、鋭い風雨にさらされている畑です。高密度の植樹が特徴。ワインはしっかりしたボディと妖艶な強さを持ちます。
2002年に最初のブロックを植え付け/合計約3ha(7つのブロックで構成)
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The Old Vineyard
オールドヴィンヤードは、1980年にハーシュとして初めてブドウを植樹したエリアです。オリジナルの植え付けは、後に多くのブロックの挿し木の元となりました。
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The Maritime Fields
海に面したマリタイムフィールドは、1990年に植え付けを開始したエリアです。『ウィリアムズ セリエム』がこの区画の果実を気に入り、初期より買い付けていたことで知られています。